オペアンプの反転増幅回路・非反転増幅回路の動作を理解する

学生の頃,オペアンプの反転増幅回路と非反転増幅回路を勉強したとき,それぞれの増幅率の計算式を公式として覚えた感じで,オペアンプの動作としては全くと言ってよいほど理解できていなかった(とある国家試験を受けるためにはそれで十分だった・・・).でもその程度の理解だと,いざ試験の時に公式を度忘れしてしまって・・・なんてことになりかねない.そんな悩みを抱える学生も多いのではないかと思い,反転増幅回路と非反転増幅回路の動作について,仮想短絡とは何かということに触れつつ纏める.

 

 反転増幅回路と非反転増幅回路の概要

オペアンプとは?という内容については,色んなところに結構わかりやすく纏まっている気がするのでここでは省略する.

オペアンプを利用した代表的な増幅回路には,反転増幅回路と非反転増幅回路があるが,以下図に示すように,出力信号を反転入力端子に戻すような構成となる(これを負帰還という).

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反転増幅回路(図左)と非反転増幅回路(図右)

反転増幅回路と非反転増幅回路の入出力関係は,理想的な条件においては以下のように表されることを覚えている人は多いのではないでしょうか.

  • 反転増幅回路:  \displaystyle V_{out}=-\frac{R_2}{R_1}V_{in}
  • 非反転増幅回路: \displaystyle V_{out}=\left (1+\frac{R_2}{R_1}\right )V_{in}

 なぜ,反転増幅回路の場合はマイナス記号がついているのか,非反転増幅回路の「1+」はどこから出てきたのか.恥ずかしながら学生の頃の私は,そういうものだと思考停止していた.オペアンプの動作を理解し,なぜ上式となるのかを理解するためには,仮想短絡(イマジナリショート)というものをまず理解しておく必要がある.

 仮想短絡(イマジナリショート)って何?

仮想短絡というのは,上記のような反転増幅回路や非反転増幅回路において,オペアンプの反転入力端子(マイナス端子)と非反転入力端子(プラス端子)の電圧差がゼロに近く(理想的にはゼロだが現実はそうならない),あたかも短絡(ショート)しているように見えることをいう.

言い換えると,「反転入力端子と非反転入力端子が同電位を保つようにオペアンプが動作するため,結果的に仮想的に短絡しているように見える」ということである.

ちなみに,上図の反転増幅回路のように,非反転入力端子が回路の基準電位(回路GND)に接続されている場合,「仮想接地」と言ったりもする.

(※接地とは,本来は基準として大地(アース)を使用するためにそのように呼ばれているが,大地ではなく回路の基準電位点あるいは基準電位点に接続するという意味で使用される場合でもそのように呼ばれることが多い.電子回路においては後者の意味で使用されることが多いため,大地に接続する場合と分けて回路の共通電位と捉える方が良く,共通電位=基準電位を接地点として取り扱う.)

 反転増幅回路の動作を理解する

では,仮想短絡=オペアンプが反転入力端子と非反転入力端子が同電位を保つように動作する,という考え方で,反転増幅回路の動作を考えてみると,以下図のように,点Pすなわち反転入力端子は非反転入力端子と仮想的に短絡していると考えることができて,この回路の場合点Pは仮想的に回路の基準電位(回路GND)に接続されていると考えることができる.

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反転増幅回路における仮想短絡

そしてここでもう一つ重要なオペアンプの特徴が出てくる.理想オペアンプの入力インピーダンスは無限大であり,反転入力端子へは電流は流れ込まないということである(現実のオペアンプでは無限大ではなく,電流は少し流れ込む).これを利用すると,キルヒホッフの法則より以下の式が成立する.

\displaystyle i_1+i_2=0

 さらにオームの法則より以下のように書き換えることができる.

\displaystyle \frac{V_{in}}{R_1}+\frac{V_{out}}{R_2}=0

これをV_{out}について整理すると,

\displaystyle V_{out}=-\frac{R_2}{R_1}V_{in}

となる訳である.後述するが,これはあくまで理想オペアンプの場合,ということを覚えておかなければならない.

 非反転増幅回路の動作を理解する

教科書的には一番最初に示したような絵が出てくることが多いのですが,非反転増幅回路の場合,個人的には以下のように書き直した方が何となく理解しやすい・・・気がする.

仮想短絡=オペアンプが反転入力端子と非反転入力端子が同電位を保つように動作する,という考え方で,反転増幅回路の動作を考えてみると,下図の点Pが V_{in}と等しくなるようにオペアンプは動作する.少し言い換えると,オペアンプは点Pが V_{in}となるように V_{out}を調整する.

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非反転増幅回路における仮想短絡

 上図は,出力電圧 V_{out} R_1 R_2で分圧したとき,点Pにおける電圧が V_{in}と等しくなるようにオペアンプが動作するのである.したがって,

\displaystyle \frac{R_1}{R_1+R_2}V_{out}=V_{in}

であるから,これを V_{out}について整理すると,

\displaystyle V_{out}=\frac{R_1+R_2}{R_1}V_{in}

となり,最終的に,

 \displaystyle V_{out}=\left (1+\frac{R_2}{R_1}\right )V_{in}

を得る.反転増幅回路同様に,これはあくまで理想オペアンプの場合,ということを覚えておかなければならない.

 理想オペアンプと現実オペアンプ

これまで述べてきたのは,理想オペアンプの場合の動作である.現実のオペアンプにおいても多くの場合理想的な条件通りに動作するが,そうならない場合もある.その理由は色々あるが,例えば,

  • オペアンプの入力インピーダンスは無限大ではなく,端子に電流がわずかに流れ込む
  • 入力電圧0Vであっても出力電圧は0Vではない(オフセットの存在)
  • 増幅率には限界がある
  • 出力できる電圧・電流には限界がある
  • etc

などである.したがって,現実のオペアンプにおいて,反転増幅回路や非反転増幅回路の一般式は,以下のように書かれるべきである.

  • (現実)反転増幅回路:  \displaystyle V_{out}\simeq -\frac{R_2}{R_1}V_{in}
  • (現実)非反転増幅回路: \displaystyle V_{out}\simeq \left (1+\frac{R_2}{R_1}\right )V_{in}

抵抗値をどのように選定すべきか,回路設計時の注意点は何かなどについては,また別途纏めることとするが,まずは理想的なオペアンプの動作を理解することが,現実のオペアンプの動作を理解する上では重要である.

 

※2019年1月11日追記

別の記事も是非参考にしてください:

eletech.hatenablog.com

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